手作りならではの独特の質感と豊かな表情を楽しめる陶器。コイケヨシコさんの作品は、主張しすぎることなく、日々の生活に自然と馴染んでくる。
手作りならではの独特の質感と豊かな表情を楽しめる陶器。コイケヨシコさんの作品は、主張しすぎることなく、日々の生活に自然と馴染んでくる。
「料理が映えるように、シンプルに作っています。生活に密着する陶器でありたいですね」とコイケさん。夏ならブルー、秋ならブラウンなど四季も意識している。タタラづくりやイギリスで古くからある「スリップウェア」など、伝統的な技法を駆使しているが、カジュアルな雰囲気で、気取らず、普段使いしやすそうな印象。
日々の食事で使うから、持ちやすさや使いやすさも重視している。たとえば茶碗は、手に持つと、思ったよりもずいぶん軽い。成形した後に底を削り、さらに片手で持ってストレスがかからない重さになるよう、手で厚みを確かめながら無駄な部分を削っていくのだそう。「お客様からは、使いやすいとよく言われます。『普段は何も言わない家族から使いやすいと言われた』と喜んでいただいたことも」。食器棚の中は、よく使う食器は前に、あまり使わない食器は後ろに置かれることが多い。そこで、お客さんに「どんな器が前にありますか?」と質問して、陶器作りの参考にすることもあるそう。
窯は、電気やガスではなく灯油窯を使っている。直接火が器に当たるので釉薬が化学反応を起こし、思いがけない結果になることもあるという。「7割は思い通りです。でも、同じ釉薬を使っても、窯の場所や使う土の種類によっても色の出方が変わって予期せぬ色が出ることも。思い通りにならないこともありますが、それが器作りの楽しさです」。最初は茶色やグレーだった土が、窯出しの瞬間に鮮やかな色を持って現れる。その瞬間が一番楽しいという。
「とにかく作ることが好きで、やめられません。中毒のようです」と、日々作品作りに没頭するコイケさん。土も無駄にしない。失敗したら乾燥させて水を入れ、もう一度再生し何回でも使っているそう。「陶芸は、捨てるところがないエコな工芸。自然に近いアートではないでしょうか」。土という自然の素材から生まれるからこその、楽しみ方もある。「使ううちに貫入(かんにゅう)と呼ばれる小さなヒビが入ることがあるんです。こういう変化もまた、味のひとつ。使えば使うほど味わいが深まってくる。毎日器を育てるように、そばに置いて、長く大切に使っていただけたらうれしいですね」。