靴作家の平川さんが作る靴や革小物は、どれもシンプル。ステッチや装飾は極力入れず、金具も見せない作品が多い。しかしどの作品にも個性や味わい深さがあり、思わず手にとってみたくなる。
靴作家の平川さんが作る靴や革小物は、どれもシンプル。ステッチや装飾は極力入れず、金具も見せない作品が多い。しかしどの作品にも個性や味わい深さがあり、思わず手にとってみたくなる。
特に靴は、木型からオリジナルで制作しているため、自分だけの一足ができる。平川さんは「同じ型で作っても、手作業の調整次第で仕上がりが変わるのが靴づくりの面白いところです」と話してくれた。
平川さんが靴作りを始めたきっかけは、ハンドメイドの革靴を作る教室に通ったことだった。大きさも形も全て自分次第、少しの失敗も仕上がりに影響するが、手作りなのでアイデアでカバーすることもできる。「100点満点の靴はなかなか作れません。でもそこが面白い」と平川さん。その難しさにすっかり魅せられ、靴工房へ転職。やがて自らのアトリエで靴制作を始めるようになり、今では革小物なども数多く作っている。
全てのアイテムの始まりは、一枚の大きな革。部位によって厚みが異なり、傷やシワが入っている部分もあるため、最初の裁断を間違えてしまうと仕上がりにも影響する。「一枚の革でも部位によって全然違う。それぞれに表情があるんです」。
素材への愛着が深く、残ったハギレも捨てずに置いておいて、他のアイテムに利用。時にはデッドストックを仕入れたり、一般的には捨てられてしまうような部位も置いておき、アイデアでポーチやキーホルダーなどの小物に生まれ変わらせている。「誰も作っていないようなものを創り出したい」と言うようにどの作品も個性的だ。
革製品の良いところは、経年変化を楽しめるところ。靴は中敷の下にも革を使っているため、体重が乗って汗をかいて、と何回も繰り返すうちに足の形に沈んでいく。甲を覆うアッパーも伸びていくから、履くほどにその人の足の形に馴染み、どんどん履き心地がよくなっていく。
「革は手入れの仕方でも全く変わります。味を出していきたいのか、このままの風合いをキープしたいのか、使う人がどうしたいかによるんです」と平川さん。同じ靴でも使う人の好みで変わっていくから同じものが一つとしてない。だからこそ、使う人の愛着が湧き、大切に使われ続ける。「永年的に使えるものではありませんが、10年、20年と道具として使い込んでもらえるのが一番うれしいですね」。