靴下の国内生産量で日本一を誇る奈良県広陵町。靴下工場「SOUKI」は、1927年の創業から約90年にわたって、「日々の生活のなかで、本当に良いと感じてもらえる靴下を追求したい」という想いを貫き、靴下づくりを続けてきた。
靴下の国内生産量で日本一を誇る奈良県広陵町。靴下工場「SOUKI」は、1927年の創業から約90年にわたって、「日々の生活のなかで、本当に良いと感じてもらえる靴下を追求したい」という想いを貫き、靴下づくりを続けてきた。
しかし近年、日本の伝統技術を用いたものづくりは減りつつある。「昔から受け継がれてきた技術や機械がなくなっていくのはさみしい。自ら発信し、ものづくりを次の世代に残していきたいんです」と話すのは、5代目代表の出張さん。曽祖父の代から続く工場を受け継ぎ、3年前に自社ブランドを立ち上げた。
SOUKIがつくるのは、荒く、ざっくりと編んだローゲージの靴下。ふんわりとしたはき心地で、肉厚の繊維が足をやさしく包み込む。その素材は主に、天然のリサイクルコットンやオーガニックコットン。もちろん、伸縮性のためにはポリエステルやポリウレタンなどの化学繊維も使う必要がある。しかし、天然素材の割合は90%以上とかなり高い。「肌に直接触れる靴下だからこそ、履き心地がよい靴下、毎日履きたくなる靴下を目指しています」と出張さん。
製造工程では、コンピュータで制御する機械ではなく、ヴィンテージのローゲージの編み機 を使っている。古いものでは50年以上前のものになるそう。ボタン一つで編み上がる、というような簡単なものではなく、職人がドライバー1本で調整しながら編み上げていく。「今のマシンのように効率よく高速で編むことはできません。でも、ゆっくりゆっくり、空気と一緒に糸を編み込むので、ふんわりとした履き心地になります。それに、風合いがとてもいいんです」。糸への負荷もかからないため、丈夫で長持ちするという。
当然、大量生産には向いていない。しかし、「履き心地がよくて、丈夫な靴下」を追求すると、この製法を続けるしかない。「たくさんの人が、日本製の靴下をもっと買ってくれたらうれしいですね。そうじゃないと、職人も機械も廃れてしまいますから」と出張さん。資源の少ない日本で、貴重な天然繊維から生まれた体にやさしい靴下。これを長く使い続けてもらうことで、技術も素材も持続できる形で受け継がれていくはず、と今のものづくりのスタイルを貫く。
循環を意味する「Re Loop」は、最初に立ち上げたブランド。デザインはカジュアルで、カラーも豊富にラインナップ。紡績の際に出る「落ちわた」を集めてもう一度紡績にかけたリサイクルコットンなどが使われているが、「エコだから履きたい」という靴下ではない。「エコを押し付けたくはありません。おしゃれを楽しみながら、気づいたらエコしていた、というくらいでいいんです」と話す出張さん。
デザイン、履き心地が良いからこそ、使う人にも、大切にしようと思う意識が自然と生まれる。そんな美しい循環をめざした靴下。化学繊維の靴下に比べれば、「高い」と感じる人もいるだろう。しかし、その一糸一糸に、価格だけではない物語が紡がれている。