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毎日使いたくなる味わい深さ。100回に1回の偶然が生み出す器
-しの平窯-

何十種類もの土や釉薬を独自に配合し、オリジナルの器を作る陶工房「しの平窯」。ご主人の貴志さんが主に陶器を作り、奥さんの恵さんが陶器に絵付けをしたり、オブジェを作ったりしている。オリジナル性が高い製法で作られた陶器が多いが、自然を感じさせる色や形や模様で、どれも使いやすくて料理が映える。手に持つとやさしくなじんで「毎日使いたい」と思わせてくれるような味わい深さがある。



特に、目を引くのが「黄瀬戸」の器だ。通常、黄瀬戸はツルツルとしたガラス質の陶器だが、しの平窯の黄瀬戸はマットに仕上がっている。自然からそのまま生まれ出たような質感と形で、今にも呼吸を始めそうだ。「苔むした木や石のイメージでつくりました。釉薬を調整して、あえてこの質感を出しています」と貴志さん。表面には、木の皮のような小さなひび割れができている。これは、焼く段階で土と釉薬が縮む現象を利用して生み出されたもの。日本的な美しさがあり、イベントに出店すれば外国人もよく訪れるという。

-Profile- しの平窯 篠原貴志さん
京都伝統工芸専門校で陶芸を学んだのち、貴志さんは佐賀県有田町で有田焼を学ぶ。その後、瀬戸や京都の窯元に勤務。恵さんは長崎県波佐見町の窯元に勤務し、波佐見焼を学ぶ。2016年に夫婦で独立し、京都府亀岡市の工房で作陶している。

十数年の修行を経て、「自分の作品を作りたい」と窯元から独立して以降、常に新しい製法を探しながら陶器を作り続けてきた。「習ったこととは違うこともしてみたいんです」と話す貴志さん。あえてろくろの真ん中からずらした位置に土を据えて作った器もあれば、土の塊を目を閉じたまま勢いよくつぶし、そこから成形した皿もある。計算だけでは作れない”いびつ”さが魅力だ。

焼成においても、全てが計算通りに焼きあがるわけではない。「あえて安定しない釉薬を使っているので、同じ窯で焼いても違った表情が生まれます。それが面白い。100回に1回しか焼けないような仕上がりになるのがいいんです。窯を開けて、想像を超えるものが出てきたときはうれしいですね」。

黄瀬土のマグカップ。石や苔など自然をイメージしたため、あえてマットな質感で仕上げる。やさしく手に馴染むしの平窯ならではの風合いだ。

木の切り株をイメージした「きりかぶシリーズ」も、全ての仕上がりが違う。器の内側には貝殻を押し当てて模様を付け、マットな質感の白い釉薬で仕上げる。白色の中に見える黒い斑点は、土の中の鉄分が浮き出してきたものだそう。斑点の浮き出る具合にも貴志さんの狙い目はあるが、完全にコントロールすることはできない。しかし、偶然が生み出す表情はどれも美しい。

貴志さんが焼き、恵さんが絵付けをした茶碗。フリーハンドで描かれた繊細なライン。手の平に軽く、やさしくなじんでくれるしの平窯の陶器。使うほどに愛着がわく。

素材にとことんこだわる貴志さん。その大切さを知っているからこそ、土や釉薬は決して無駄にしない。粘土の削りカスも捨てずに化粧土などに再利用し、釉薬は調合して別の作品に使っているという。こうして素材を大切に、育てるように作られた作品だから、使うほどに愛着がわく。「お気に入りを持ってもらって、長く使ってくれたらうれしいですね」。

独立して4年目。まだまだ歩み始めたところで、試行錯誤をしながら作陶しているというお2人。「いろんな手法を試しています。とどまることなく、変わっていきたいですね」。これからもしの平窯にしかできない、面白い進化を見せてくれそうだ。

真っ白な中に、縁だけ素地の黒がのぞく粉引きの茶碗(1,000円)。
同じ土、同じ釉薬を使っても全く違う表情を見せてくれる。
女性人気が高い、きりかぶシリーズ。内側に貝殻を押しあてて模様を施している。
パグの置物(3,000円)。一つひとつ表情や佇まいが少しずつ違っていて、どれも愛らしい。
口元は分厚く、中心は薄く成形しているので、重厚感がありながらも、持つと驚くほど軽い。