何十種類もの土や釉薬を独自に配合し、オリジナルの器を作る陶工房「しの平窯」。ご主人の貴志さんが主に陶器を作り、奥さんの恵さんが陶器に絵付けをしたり、オブジェを作ったりしている。オリジナル性が高い製法で作られた陶器が多いが、自然を感じさせる色や形や模様で、どれも使いやすくて料理が映える。手に持つとやさしくなじんで「毎日使いたい」と思わせてくれるような味わい深さがある。
何十種類もの土や釉薬を独自に配合し、オリジナルの器を作る陶工房「しの平窯」。ご主人の貴志さんが主に陶器を作り、奥さんの恵さんが陶器に絵付けをしたり、オブジェを作ったりしている。オリジナル性が高い製法で作られた陶器が多いが、自然を感じさせる色や形や模様で、どれも使いやすくて料理が映える。手に持つとやさしくなじんで「毎日使いたい」と思わせてくれるような味わい深さがある。
特に、目を引くのが「黄瀬戸」の器だ。通常、黄瀬戸はツルツルとしたガラス質の陶器だが、しの平窯の黄瀬戸はマットに仕上がっている。自然からそのまま生まれ出たような質感と形で、今にも呼吸を始めそうだ。「苔むした木や石のイメージでつくりました。釉薬を調整して、あえてこの質感を出しています」と貴志さん。表面には、木の皮のような小さなひび割れができている。これは、焼く段階で土と釉薬が縮む現象を利用して生み出されたもの。日本的な美しさがあり、イベントに出店すれば外国人もよく訪れるという。
十数年の修行を経て、「自分の作品を作りたい」と窯元から独立して以降、常に新しい製法を探しながら陶器を作り続けてきた。「習ったこととは違うこともしてみたいんです」と話す貴志さん。あえてろくろの真ん中からずらした位置に土を据えて作った器もあれば、土の塊を目を閉じたまま勢いよくつぶし、そこから成形した皿もある。計算だけでは作れない”いびつ”さが魅力だ。
焼成においても、全てが計算通りに焼きあがるわけではない。「あえて安定しない釉薬を使っているので、同じ窯で焼いても違った表情が生まれます。それが面白い。100回に1回しか焼けないような仕上がりになるのがいいんです。窯を開けて、想像を超えるものが出てきたときはうれしいですね」。
木の切り株をイメージした「きりかぶシリーズ」も、全ての仕上がりが違う。器の内側には貝殻を押し当てて模様を付け、マットな質感の白い釉薬で仕上げる。白色の中に見える黒い斑点は、土の中の鉄分が浮き出してきたものだそう。斑点の浮き出る具合にも貴志さんの狙い目はあるが、完全にコントロールすることはできない。しかし、偶然が生み出す表情はどれも美しい。
素材にとことんこだわる貴志さん。その大切さを知っているからこそ、土や釉薬は決して無駄にしない。粘土の削りカスも捨てずに化粧土などに再利用し、釉薬は調合して別の作品に使っているという。こうして素材を大切に、育てるように作られた作品だから、使うほどに愛着がわく。「お気に入りを持ってもらって、長く使ってくれたらうれしいですね」。
独立して4年目。まだまだ歩み始めたところで、試行錯誤をしながら作陶しているというお2人。「いろんな手法を試しています。とどまることなく、変わっていきたいですね」。これからもしの平窯にしかできない、面白い進化を見せてくれそうだ。