広大な店舗のあちこちに、緑のマークが掲げられ、商品を通じて「サステナブルに暮らすアイデア」を提案、「再生可能な未来」の実現を訴える。スウェーデン発祥で世界に展開するホームファニッシングカンパニーの「イケア」は、「サステナビリティ」(持続可能性)を重視する企業として知られている。その思いは、2008年に開業した大阪市大正区の「IKEA鶴浜」を歩いても、十分に感じられた。スウェーデンは、国連が定める「持続可能な開発目標SDGs」の達成度において、国際的に評価が高い国。イケアの取り組みは、貧困、飢餓、気候変動、ジェンダーなどに関する17目標の2030年までの解決を目指すSDGsとも、深くつながるものだ。
木より成長が早い竹を使った丈夫で長く使える商品や、色分けして簡単にゴミの分別ができる再生プラスチックのゴミ箱など、サステナブルな商品が並ぶIKEA鶴浜で、マーケットマネジャーの小林重崇さんは、目指すビジョンを➀「健康的でサステナブル(持続可能)な暮らし」、②循環型ビジネスと気候変動に対応する「サーキュラー&クライメートポジティブ」、③あらゆる平等と自由な参画を保障する「公平性とインクルージョン」の3本柱だと説明した。サステナビリティに関する目標はSDGsに沿って30年までの達成を目指す。
例えば➀で重要な商品の一つの布素材。リサイクルの綿か栽培時の水・肥料・農薬の量を減らして農家の利益率を高めた綿花を使う。②では古くなった家具の買い取りを進め、30年までに全世界の事業で温室効果ガスの排出量を16年比で80%削減することなどを打ち出した。③に関しては、男女の平等はもちろん、人種、国籍、性的嗜好になどによるすべての差別に反対し、多様な人が一体となって働く職場を目指す。
「I(IKEA)WAY基準」というものもある。商品の製造や配送の業者にも、人権、環境保護、労働者の保護などに関してイケアのルールを守ることを求めており、それに反すれば調達をやめることもある。
小林さんは「サステナビリティの考え方を一部の人のものにとどめたくない」と言う。「IKEA鶴浜にご来店される多くのお客様に、何がサステナビリティなのか、どうしたらそれに貢献できるのか、何から始めたらいいのか、提案していきたい」。そんな小林さんが重視するのは食品だ。「一番わかりやすく、入りやすい」と考えるからで、一押しが昨年売り出した「プラントボール」。人気商品のミートボールを植物由来で再現した。生産で大量のCO2を排出する肉を使うミートボールに比べると、環境負荷を4%に抑えられたという。「味もいい。食べて感激しました」。8個499円(税込)と財布にも優しい。他に植物由来のホットドッグやラザニアもある。
また、クリーンエネルギーの使用に向けた取組みも積極的だ。IKEA鶴浜では全電力を再生エネルギーでまかなっており、2021年現在、使用電力の4%は敷地内に設置した500枚のソーラーパネルが担う。パネルの増設で2022年には7%にする計画だという。最寄り駅と店をつなぐシャトルバスもCO2を出さない水素バス、電動バスの導入を計画している。店内の照明はもちろんLED、配送トラックの電動化にも取り組むそうだ。
従業員への教育にも力を注ぐ。3カ月に1度の全従業員対象の会議でもサステナビリティは重要なテーマだ。途上国の自立や環境保全を支援する公正な貿易「フェアトレード」などについても研修している。ユニークなのは一人ひとりの目標を具体的に書いてもらっていることだ。「ペットボトルを買いません」「公共交通機関を使います」といった約束が顔写真とともに、バックヤードで順番に画面に映し出されていた。そんな従業員たちの制服の素材は再生ポリエステルや再生綿だ。
2021年秋、イケアは「ロハスフェスタ」に初めて出展する。小林さんは「ロハスフェスタの『みんなの小さなエコを大きなコエに』のテーマは、イケアのスピリットとも重なる。これをきっかけに、継続して協力関係をつくっていきたい」と語る。
この出展計画に伴って、イケアはロハスフェスタの新たな企画「LohasFesta SDGs Collection」に参画することにもなった。この企画は、ロハスフェスタがSDGsにかかわる素材を選定し、出展者がその素材を使用して作品をつくるもの。イケアの布素材はSDGsの「つくる責任・つかう責任」「陸の豊かさも守ろう」の達成にも合致し、端材の使用は無駄な廃棄をなくすことで「つくる責任・つかう責任」に通じる。今回、約10件のロハスフェスタ出展者が参画することになった。「どのような作品ができるか本当に楽しみ」と小林さん。
SDGsの達成に向けて世界をリードするイケアの活動を今後も注目したい。