青空の下、万博記念公園の道々で立ち止まっては草を手に取り、足元に落ちた実を拾い、虫たちを目で追う子どもたち。はたあきひろさんの生き物観察会では、五感による体験をとても大切にしている。自然を知る・学ぶよりも、実際に目で見る、手触りや匂いを感じる。それは、テレビやインターネットでは決してできない体験だ。
「子どもたちに知識を教えようとか、感動させようとは思っていません。どちらかと言うと、僕自身が常に『自然』や『命』に対して感動しているんです。自分が感動したことを伝えることで、いつかそれが子どもたちにとって自然への入口になってくれれば」。
子ども向けにことさら易しく話をすることもなく、言葉を飾るわけでもなく、ただ「命」に感動して、生き物の面白さや発見を次から次へと話すはたさん。その話を聞いていると、自分が見落としてきた『自然』に気づき、その自然の中に自分がいることを強烈に意識させられる。
はたさんは、16年前から自給自足の生活を送っている。そのきっかけは阪神大震災だった。命は無事だったものの、西宮にあった実家は全壊した。「震災の晩に家族で食べたものは、おにぎり一つでした。こんなに豊かな時代に、お金もあるのに、どう頑張ってもその晩はおにぎり一つしか確保できなかったんです」。その日生きる食を確保すること、それがいかに大切かを思い知らされたという。「命の儚さは人間も他の生き物とは変わらない。自分も一つの生き物なんだ」。これが、多くの人の命を奪った震災を目の当たりにして抱いた思いだ。
「生き物はみんな、食べるものを自分で確保しています。これは、生き物として、命としての基本。最低限、自分と家族が食べるものは人に任せっきりにしてはいけないと思いました」。今は400坪の田畑を借りて、自分と家族が食べる米と野菜を手作りしている。生きるために、米や肉や野菜という「命」をいただくと、自然はつながっていることを実感できる。
「大事なのは、そのつながりをイメージすること。そのためにも、なんでもいいから小さな自然を家の中に置いてほしい」とはたさん。例えば、レモンの樹をベランダに植える。すると、この万博記念公園で蜜を吸ってきたかもしれないアゲハが飛んできて、産卵し、幼虫がレモンの葉を食べ成虫になる。そのアゲハが渡り鳥に食べられ、海外に移動し、また日本に帰ってくる。「レモンの木が大自然への扉になって、自然が全部つながっているように感じてきませんか?」。
はたさんは決して押し付けない。しかし、はたさんと話していると、巡りゆく「命」や「自然」のイメージがゆっくりと伝わってくる。目線を少し変えることで、普段暮らしている日常の中にも大きな発見があること、そしてそれは人生をとても豊かにしてくれるということに気づかせてくれる。